仙台高等裁判所 昭和35年(ネ)160号 判決 1960年12月05日
控訴人 吉田吉三郎
被控訴人 橋本義顕
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を決め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張は
被控訴代理人において、後記控訴人の主張に対し、売渡担保が質権、抵当権と性質を同じくし、民法第四九六条第二項には売渡担保の場合も包含するものであるとする解釈には何等根拠がない。右条項はその供託によつて「質権又は抵当権」の消滅したことが明らかな場合を指すのである。また供託によつて「質権又は抵当権」の消滅せしむべき場合には、その「質権又は抵当権」の表示をなすべき旨の定になつているのに、控訴人の本件供託においては右の表示がないから、仮に前記解釈が許されるにしても控訴人主張の担保権消滅の効力を生じ得るものでない、と述べ
控訴代理人において、売渡担保も債務の弁済を担保するものである点においては質権、抵当権と全く性質が同一であるから、民法第四九六条第二項には、売渡担保の場合も当然包含されるものと解すべきである。したがつて控訴人の本件供託により本件不動産上の担保権は消滅し、供託金に対する控訴人の取戻請求権は消滅したのであるから、控訴人の他の債権者が右請求権の転付を受け得ないことは明らかであつて、その転付命令を得ても債権転付の効力を生じ得ないものである。要するに右供託により被控訴人の債権ならびに担保権は消滅し、本件不動産は控訴人の所有に帰したものである。これは別訴(福島地方裁判所郡山支部昭和三〇年(ワ)第一〇〇号事件)が昭和三五年九月一五日上告棄却により控訴人勝訴に確定したことにより特に明らかであるといわなければならない。なお控訴人は本件供託にあたり、甲第一号証に明らかなとおり、供託によつて消滅せしむべき売渡担保を表示しているのであるから、消滅すべきものゝ表示がない旨の控訴人の主張は理由がない、と述べたほか原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。
証拠として被控訴代理人は甲第一号証を提出し、乙号各証の成立を認め、控訴代理人は乙第一、二、三号証を提出し、甲第一号証の成立を認め、これを援用した。
理由
控訴人は本件訴は別訴(福島地方裁判所郡山支部昭和三〇年(ワ)第一〇〇号事件)と訴訟の目的物が同一である旨主張しているところ、控訴人は当審にいたり、右別訴はその後上告棄却の判決により確定した旨陳述しているのであるから、本件訴が民事訴訟法第二三一条に反する旨の抗弁は自ら無意味に帰することとなるし、なお本件訴は右別訴と訴訟物を同一にするものでないからその既判力に牴触するものでないことも明らかである。
そこで本案につき判断するに、被控訴人は、昭和二九年一一月二〇日本件不動産を控訴人から単純に買受けた旨主張するところ、これを認むべき証拠はなく、成立に争のない乙第一、二、三号証を総合すると、控訴人は昭和二八年六月一日当時、被控訴人から金一〇〇、〇〇〇円を利息年一割と定めて借受けた債務を負担していたが、昭和二九年一一月一〇日さらに被控訴人から金二〇〇、〇〇〇円を利息年一割と定めて借受け、その際被控訴人との間に、本件不動産の所有権を右両債務の売渡担保として控訴人から被控訴人に移転し、昭和三一年六月三〇日までに右両債務を弁済したときは右不動産所有権の返還を受くべき旨約したものであることが推認できる。したがつてこれにより本件不動産所有権は被控訴人に帰したものであるといわなければならない。
次に控訴人が右債務の弁済として弁済期限前の昭和三一年六月二九日元利金として金三六四、五〇〇円を供託したことならびに控訴人の右供託物取戻請求権は被控訴人主張のとおり昭和三三年一〇月二五日ごろまでに全部他の控訴人債権者に転付されたことは当事者間に争がない。これによると前記の供託が仮りに弁済の効力を生じ得る有効なものであつたとしても、右転付の結果右供託はこれをしなかつたものとみなされ弁済の効力を失つたものといわなければならない。控訴人は、売渡担保は債務の弁済を担保するものである点においては質権、抵当権と性質が全く同一であるから民法第四九六条第二項にはこれと同様売渡担保の場合も包含される旨主張するところ、売渡担保は債権の担保的作用の面において質権、抵当権と類似するところがあるとしても、これを質権、抵当権と同様右条項に包含させることについては、未だこれを首肯するに足る十分な根拠を見出し難いから、売渡担保の場合に右条項の適用があるものと解し難い。したがつて控訴人の右主張は採用し難く、控訴人主張の別訴(福島地方裁判所郡山支部昭和三〇年(ワ)第一〇〇号)事件の確定判決(乙第一、二、三号証)は右の結論を左右するものでない。したがつて前記の供託は、本件不動産に対する被控訴人の所有権自体には特別影響を及ぼすものでないといわなければならない。しかして被控訴人が控訴人に対し、本件不動産所有権の確認を求めるにつき法律上の利益を有することは本訴自体によつて明らかであるから、他の点の判断をなすまでもなく被控訴人の本訴請求は正当として認容すべきものである。
結局内容において一部相違するところがあつても、本件不動産につき被控訴人の所有権を認めた原判決は、結論において右と趣旨を同じくするから相当であつて、本件控訴はその理由なきに帰する。
よつて民事訴訟法第三八四条第九五条第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 鳥羽久五郎 畠沢喜一 桑原宗朝)